教育分野で生成AIを活用する方法を模索する最新の研究で、教科書を生成AIで再構築することで学習者の学習成果が向上することが実証されました。これを用い、Googleは生成AIを用いて教科書をより優れた教材に再構築する「Learn Your Way」をリリースしています。
Learn Your Way: Reimagining textbooks with generative AI
https://research.google/blog/learn-your-way-reimagining-textbooks-with-generative-ai/

教科書は教育の基本となるものですが、根本的な限界を持ち合わせています。教科書を手作業で作成するには多大な人的労力が必要であり、教科書を用いた学習をより効果的で魅力的なものにするには、「代替的な視点」「多様なフォーマット」「カスタマイズされたバリエーション」が欠けているとGoogleは指摘。Googleは生成AIを活用することで、資料の完全性を維持しながら「代替的な視点」や「パーソナライズされた事例」を自動的に生成する方法を研究しています。
生成AIの進歩はこのビジョンを現実に近づけるものであるとGoogleは記しており、その一翼を担うものとして、「Learn Your Way」を発表しました。GoogleはLearn Your Wayを「生成AIがどのように教科書を変革し、すべての生徒にとってより効果的で魅力的な、学習者主導の学習体験を生み出すことができるかを探る研究実験」と表現しています。
Googleのアプローチは、学習体験を強化するために連携して機能する「1:コンテンツのさまざまなマルチモーダル表現を生成すること」と「2:パーソナライゼーションに向けた基礎的なステップを踏むこと」です。
二重符号化理論によると、異なる表現の間に精神的なつながりを築くことで、脳の根底にある概念スキーマが強化されます。その後の研究で、生徒がさまざまな形式の情報に積極的に関わることで、より堅牢で完全な教材のメンタルモデルが構築されることが示されています。Googleのアプローチはこれに着想を得ており、生徒が教材の理解を最大限に高めるために、複数の形式と様式を自由に選択して組み合わせることができるようにしています。
さらに、K-12教育の現場でますます望ましい標準になりつつあるパーソナライゼーションを、Googleは反映しようとしています。Googleは教育コンテンツを生徒の属性に合わせて調整することで、その関連性と有効性を高めることを目指しています。加えて、学習者のリアルタイムの反応に応じて体験をさらにカスタマイズできるクイズ機能を組み込むことで、学習者の学習意欲を高め、学習を深めることを目指しているそうです。
これを実現するには、Gemini 2.5 Proに直接統合されたクラス最高の教育学に基づいたモデル群であるLearnLMを用いた階層的な技術的アプローチが必要であるとGoogleは記しています。Learn Your Wayの基盤となるのは、独自の「パーソナライゼーション・パイプライン」を用いているという点と、このパーソナライゼーション・パイプラインをベースに「複数のコンテンツ表現」を作成しているという点です。
◆パーソナライゼーション・パイプライン
通常の教材は学習者が申告した学年に合わせてレベル調整されるのみです。一方で、Learn Your Wayは学習者に学年のほかに興味関心を持つもの(例:スポーツ、音楽、食べ物)を選択するよう求めます。これにより、一般的な例文を、学習者が申告した興味に合わせてパーソナライズされた例文に戦略的に置き換えます。この置き換え後テキストは、他のすべての表現を生成するための基盤となり、パーソナライゼーション効果を効果的に伝播させ、さらなるパーソナライゼーションのためのパイプラインを構築することが可能になります。
以下の図は、ニュートンの法則を説明する一般的なテキスト(上)を、Learn Your Wayが学習者のプロフィールに合わせてパーソナライゼーションしたもの(下)です。同じ内容を説明する際、左のケースではバスケットボールにたとえており、右のケースでは絵画のドローイングにたとえています。
◆コンテンツの複数の表現
Learn Your Wayはソース(一般的なテキスト)をパーソナライゼーションした後、コンテンツの複数の表現を生成します。マインドマップやタイムラインなどの一部のコンテンツ表現には、Geminiの幅広い機能が直接使用されます。ナレーション付きスライドなどの他の機能では、効果的な教育的結果を得るために、複数の専門AIエージェントとツールを組み合わせた、より精巧なパイプラインが必要です。
そして最後に、効果的な教育用ビジュアルの生成などの特殊なタスクでは、最先端の汎用画像モデルでさえも力不足であることが判明しました。これを克服するため、Googleは教育用イラストを生成するための専用モデルを微調整しています。強力なベースモデル、多段階のエージェントワークフロー、そして微調整されたコンポーネントの組み合わせにより、学習のための幅広い高品質のマルチモーダル表現を生成することができるようになるとのことです。
これにより、Learn Your Wayのインターフェースでは、「没入型テキスト」「セクションレベルのクイズ」「スライドとナレーション」「音声レッスン」「マインドマップ」など、複数のパーソナライズされたコンテンツ表現が可能になりました。
各コンテンツ表現の特徴は以下の通り。
・没入型テキスト
コンテンツを分かりやすいセクションに分割し、生成された画像や埋め込まれた質問で拡張します。これらを組み合わせることで、受動的な読書体験を、学習科学の原則に沿った能動的なマルチモーダル体験へと変貌させます。
・セクションレベルのクイズ
ユーザーがインタラクティブに学習を評価し、既存の知識のギャップを発見できるようにすることで、能動的な学習を促進します。
・スライドとナレーション
ソースマテリアル全体にわたるプレゼンテーションを提供し、空欄補充などの魅力的なアクティビティや、録画されたレッスンを模倣したナレーションバージョンも含まれています。
・オーディオレッスン
AIを活用した教師と生徒の間で、実際の学習者がどのように教材に取り組むかをモデル化した、視覚的な補助と組み合わせた模擬会話を提供します。誤解の表現も含まれており、教師によって明確にされます。
・マインドマップ
知識を階層的に整理し、学習者が全体像から詳細まで拡大・縮小できるようにします。
これらのコンテンツ表現は学習者に選択肢を与え、選択した学年と個人の興味に合わせて調整されます。学習体験全体を通し、インタラクティブなクイズが動的なフィードバックを提供し、生徒が苦手とする特定のコンテンツ領域を再学習できるよう導きます。GoogleはLearn Your Wayの幅広いコンテンツ表現について、「真のパーソナライゼーションに向けた第一歩」と表現しました。
Learn You Wayの教育的パフォーマンスを評価するため、Googleは非営利の教育技術イニシアチブであるOpenStaxから提供された10種類の多様な教材を、3つの異なるパーソナライゼーション設定に変換しました。ソース教材は歴史から物理学まで様々な科目を網羅しています。その後、3名の教育専門家が、正確性や網羅性などの教育的基準を用い、変換後の教材を評価したところ、Learn You Wayの再構築した教材は高い評価を獲得しています。
シカゴの15~18歳の読解力が同等の学生60名を対象に、Learn You Wayを用いたランダム化比較試験も実施されました。参加者は教科書から思春期の脳の発達について学ぶため最大40分を与えられ、Learn Your Wayと従来のデジタルPDFリーダーのどちらかを用いて学習するようにランダムに割り当てられています。
学習セッション直後にクイズを実施し、3~5日後には学習内容の理解度を測る優れた指標として教育専門家が作成した記憶力評価テストを実施しました。さらに、学習体験に関するアンケート調査や、定量的な指標を超えたより深い洞察を得るため、被験者となった学生に30分の定性的なインタビューも実施しています。
学習セッション直後のテストのスコアを比較した結果、Learn Your Wayで学習したグループ(正答率77%)は、デジタルPDFリーダーを用いたグループ(正答率68%)と比べで平均9%高いスコアを獲得したことが明らかになりました。また、Learn Your Wayで学習したグループは、学習から3~5日後に行われた記憶力評価テストにおいても、デジタルPDFリーダーを用いたグループより11%高いスコアを獲得しています。なお、正答率はLearn Your Wayで学習したグループが78%、デジタルPDFリーダーを用いたグループが67%です。
Learn Your Wayを使用した学生の100%が、このツールによってテストを受けるのがより快適になったと回答。これに対し、デジタルPDFリーダーを用いたグループが「テストを受けるのが快適になった」と回答した割合は70%でした。また、93%が将来の学習にLearn Your Wayを使用したいと回答したものの、将来の学習にデジタルPDFリーダーを使用したいと回答した割合は67%でした。
Googleは「生成AIを活用することは、学習にとってより効果的であるというだけでなく、より学習意欲を高める学習体験を構築できることを示唆しています。静的な教科書をインタラクティブなアーティファクトへと進化させ、学習者自身が学習方法をより自由に選択できるようにすることで、学習定着率は向上します」と記しています。
なお、Learn Your Wayは実際に以下のサイトから利用可能で、デモンストレーションとして経済学・歴史学・社会学・生物学・化学・天文学・コンピューターサイエンス・哲学・心理学などさまざまな分野の教材をパーソナライズしたものを利用可能となっています。
Learn Your Way
https://learnyourway.withgoogle.com/
Learn Your Wayのベースとなった生成AIを教科書の再構築に用いる研究は以下です。
[2509.13348] Towards an AI-Augmented Textbook
https://arxiv.org/abs/2509.13348
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