IJCB2025参加・展示報告:歩容照合コンペティション「HID2025」で第1位を獲得 – fltech – 富士通研究所の技術ブログ

こんにちは、富士通研究所の空間ロボティクス研究センターの長村です。このたび私たちは、国際会議IJCB2025[1]にて開催された歩容照合コンペティション「HID 2025(The 6th International Competition on Human Identification at a Distance)」[2]において、第1位を獲得し、授賞式及び企業展示に参加しました。

参加メンバー:長村、Liu、Zhang

IJCBとは

IJCB(IEEE International Joint Conference on Biometrics)は、生体認証(Biometrics)分野におけるトップカンファレンスです。
顔認証・歩容照合・セキュリティなどの幅広い研究成果が集まる場として、世界中の研究者が参加します。

開催概要

  • 開催日:2025年9月8日〜11日
  • 開催地:グランフロント大阪
  • 論文投稿数:243件
  • 採択数:95件
  • 採択率:39.1%

大阪での開催ということもあり、日本国内からの参加もしやすく、多くの研究者にとって貴重な交流の機会となりました。
採択率から見ても分かる通り、競争率の高い国際会議です。特に、生体認証の分野において最先端の研究を目にできる貴重な場となっています。

オープニングセレモニーでは、大阪大学 八木先生(General Chair)が登壇

富士通の出展内容

企業展示ブースでは、以下の内容を紹介しました:

  • HID2025にて第1位を獲得した歩容照合技術
  • Fujitsu Kozuchi[3]の技術紹介動画

本出展を通じて、実社会でのFujitsu Kozuchi技術の活用に関して多くの参加者から高い関心を頂きました。

富士通の展示ブースでは、多くの来場者にお越しいただきました

ランチタイムには、Kozuchi技術紹介動画を上映

HID2025の概要

HID 2025は、遠距離からの人物識別という実課題に対し、歩容(Gait)に基づく識別技術の性能を競う国際コンペティションです。本コンペはIJCB2025との併催イベントとして実施され、世界中の研究機関・企業から63チームが参加しました。

本競技では、現実世界のノイズや多様な環境条件のもとで、歩行映像から個人を識別する能力が求められます。富士通チームは、提供された前処理済みのシルエット画像とベースラインコードを活用しつつ、独自のAIアルゴリズムを開発することで、高精度な識別性能を達成し、見事第1位を獲得しました。なお、昨年初参加したHID2024では、3rd placeを受賞しており、今回はその成果をさらに発展させた大きなステップアップとなりました。

使用データと評価手法

  • 評価データセット:SUSTech-Competition Dataset(被験者数:859名)
  • 入力形式:前処理済みの人物シルエット画像
  • 評価方法:CodaLabによる自動スコアリングシステム

各チームは提供されたベースラインに加え、独自モデルを設計・実装し、識別精度の向上を競いました。

提供された人物シルエット画像サンプル

授賞式にて富士通チームはFirst Prizeを受賞

HID2025参加統計の公開

First Prize表彰状

歩容照合の著名な研究者と記念撮影
(左から順に:Prof. Yasushi Yagi、Prof. Mark Nixon、Prof. Rahman Ahad、 Prof. Shiqi Yu)

技術内容のご紹介

課題背景:シルエット画像だけでは限界がある

歩容照合では、カメラ映像から得られる人物のシルエット画像を用いて個人を識別しますが、
以下のような課題が存在します:

  • 顔や服装などの情報が含まれていない
  • 混雑や遮蔽により、シルエットが壊れているケースが多い
  • 姿勢の微妙な違いを識別するには情報量が不十分

この課題を解決するため、私たちは以下の3つの技術的アプローチを開発しました。

技術①:マルチモダリティ(シルエット×姿勢)による表現強化

  • シルエットから姿勢を推定し、識別情報として活用
  • RGB画像から得られる姿勢を教師信号として活用
  • シルエット+Skeleton Map(ヒートマップで表現)を融合して認識精度を向上

技術②:データクレンジングによるノイズ除去

実環境では、遮蔽・混雑・撮影不良などにより、不完全または破損したシルエット画像が多く存在します。
そこで、以下の2つの手法を導入し、学習・推論時のノイズを削減しました。

  • CCA: Connected Component Analysis
    • 小さなノイズ領域を除去し、破損したシルエットを検出
  • KVCA: Keypoint Visibility-Confidence Analysis
    • 姿勢推定の信頼度や身体比率(例:脚長/体幹の長さ)に基づき、破損画像を判定・除外

技術③:複数データセットの組み合わせによる学習最適化と多数決投票

  • 異なるデータセットをそのまま統合すると、性能劣化することがある(ドメインギャップ)
  • オープンに公開されている歩容照合データセットを分析し、補完関係のデータセット同士で学習を実施
  • 複数モデルや複数試行結果を組み合わせて最終予測を多数決投票で決定し、識別精度を向上

開発技術の全体像

おわりに

今回のHID2025での第1位獲得は、富士通が目指すAI技術の社会実装に向けたチャレンジが、ひとつの成果として形になったものです。また、本結果は日本の企業・大学として初の第1位という点でも意義深く、歩容照合分野における富士通の存在感を国際的に示すことができたと考えています。この成果は、歩容照合分野の研究者にとっても刺激となり、今後の研究や実応用のさらなる発展を後押しするものとなることを期待しています。
引き続き、成果発表や社会実装に向けた取り組みにもぜひご注目ください。

関連情報

[1] IJCB2025 公式サイト
[2] 歩容照合コンペティション HID2025 公式サイト
[3] Fujitsu Kozuchi




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