ドワンゴ教育事業Webフロントエンドチームの berlysia です。
W3Cの年次総会であるTPACが、2025年11月10日~14日の期間、神戸で開催されました。
ドワンゴは以前からW3Cに参加しています。2020年に株式会社KADOKAWAの完全子会社となったあとも、KADOKAWAグループの一員として参加を継続しています。
多くのWebサービスと同じように、ドワンゴ教育事業が提供する「ZEN Study」もまた様々なWebの技術に依存しています。とくに日本語の縦書きやルビなどの高度なテキスト表現は重要な要素であり、縦書きを実際のデジタル文書でさらに広く活用していくためには、関連WGへの提案やフィードバックが行える体制が必要です。
ドワンゴからは、私がひとりで参加してきました。


どういう時間が過ぎているのか
TPACは会議の集合体です。各WGやIG、CGに会議室が割り当てられていて、そこで各グループが議論をしている……というのが最も素朴な説明です。何かものすごく洗練された仕組みがあったりはしません。人がいて、議論をしています。その進め方自体は、各グループで様々なようです。
グループ同士のジョイントミーティングもいくつか設定されていて、事前に予定された議題に向けて準備をしてきている・グループ側の時間で準備している様子が伺えました。
私が見た範囲で共通しているのは、IRCの活用です。議論の内容をチャンネルに逐次記録し、自動的に議事録を生成する仕組みが運用されています。発言を求めるキューの機能も活用されていました。
話題の抜粋
私は主に国際化WG(Internationalization WG / I18n WG)と CSS WG のミーティングに参加しました。日本語の縦書きやルビの活用には国際化WGの視点がとくに重要です。
国際化WGとCSS WGの協調について
国際化WGでの話題です。 https://www.w3.org/2025/11/09-i18n-minutes.html#efe5
w3c/i18n-activity label=wg:css には、 w3c/csswg-drafts リポジトリへのトラッキングが一覧化されています。が、これらのIssueは捌けていないのが現状です。
国際化WGの視点からは、国際化は後付けではなくCSSのアーキテクチャに組み込まれるべきだとの危機感が示されました。
CSS WGの視点では、設計段階で国際化を軽視しているつもりはないものの、複雑な論点の詳細や、論点の管理に十分対応できていない現状があるとの認識が示されました。
私たちとしても、特にルビを中心としたテキスト表現や縦書きを利用することが多いことから関心が高い話題です。論理と物理のプロパティと値については様々なIssueが立てられていますが、なかなか進んでいないのが現状です。その要素の一つとしてこうした連携の問題があることは間違いなさそうです。
非ラテン語のWCAG達成基準
同じく国際化WGでは、WCAGのミーティングの内容が報告されました。
テキストの読みやすさに関する達成基準の策定が進められており、フォントサイズや行間・行揃えなどの具体的な内容を達成基準に盛り込もうとしているところ、英語以外の言語に対する考慮が不足している点の問題提起が行われたようです。
この話題はCSS WGのメンバーであるfantasaiさんも同席のもとでも議論が持たれました。
論理プロパティの継承時の挙動
CSS WGでの話題です。 [css-logical-1] Order of inheritance vs. mapping in logical properties #3029
上下左右で指定する物理プロパティと、writing-mode や direction を参照する論理プロパティとを組み合わせた場合の継承の挙動についての議論です。
論理プロパティは、writing-mode や direction の影響を受けて内部的に物理プロパティに対応付けられていますが、論理プロパティから継承した場合に、どのような挙動になるべきか……というのがもともとの話題でした。
現状の実装を優先して「論理プロパティの値は、物理プロパティに対応付けた結果の値を継承する」ことにしないか、という議題でした。最終的にはこの通りに結論づけられました。
2020年の時点で「論理プロパティの値は、親の書字方向によらず論理的に対応する値を継承する」という結論が出ていましたが、その後5年経ってもこの挙動を実装するブラウザがいないことを踏まえています。
まず、このIssueは論理「プロパティ」のみを対象にしていることに注意が必要です。論理「値」では当然、論理値の指定自体が継承されなければ、おかしいことになります( text-align: start; の継承を考えてみてください)。
縦書きの利用者としてもこの話題には関心がありました。もちろん望ましいのは、論理プロパティには論理プロパティとして対応する値が継承されることだろうと思います。が、そもそも論理プロパティをもつような関心事に対して継承を起こすこと自体が例外的な状況であるように思えました。
というのももしも論理プロパティが初期値で継承される種類のプロパティとして定義されていた場合、今回の結論となった挙動は問題を起こす可能性がありますが、現時点ではそのようなプロパティは存在しないからです。
所感・おわりに
有限の知識と認知能力を持ち、時間的制約を抱えた人間が、集まってどうにかやっているという実情を受け取りました。
個々人の知識量や人間性に尊敬や感謝の気持ちは起こりつつ、こうした議論を人々がやっている、そしてブラウザを実装する側にも人がいて、それぞれの観点での論理と合理性がある、という当たり前のことを改めて確認することになりました。頭ではわかっていても、実際に現場で議論を目の当たりにしてみると、腑に落ちるものがあります。
ドワンゴ教育事業としては、縦書きだけでなく数式のレンダリングや、これらにまつわるアクセシビリティも関心の範囲になります。ドワンゴがW3Cに参加していることには、動画やコメント方面だけでなく教育事業の視点からも重要な意味があるという確信を持ちました。
未来の教育の当たり前を作る過程では、未来のWebの当たり前を拡張することも必要なはずです。私たちからやれることをやっていきたいという思いを新たにしました。
次のTPACは2026年の10月末に、アイルランドはダブリンで開催されます。
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