ホルモン治療薬が身体のリズムに与える影響:女性たちの半年間のデータから見えたこと – TechDoctor開発者Blog

こんにちは、データサイエンスチームの瀬川です。

テックドクターでは、女性社員のみで構成された「Ladynamic」プロジェクトを通して、女性の視点に立った課題提起とデータ解析を目指しています。同プロジェクトでは女性の健康に関する様々なデータ分析を行っており、これまでのブログ記事でもいくつかの事例をご紹介しました。

techblog.technology-doctor.com

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そんなLadynamicプロジェクトから、今回は基礎体温についてのお話です。

基礎体温は排卵の前には低く、排卵の後には高くなるというように、2つの段階に分かれます(このような性質を「二相性」と呼びます)。また、この変化には月経周期と連動した周期性があります。この連動を利用して月経周期の把握ができるため、基礎体温を毎日記録されている方もいらっしゃるかと思います。

基礎体温のニ相性。引用元:病気が見えるvol.9 婦人科・乳腺外科(第4版)(メディックメディア)

スマートウォッチ等の一般的なウェアラブルデバイスで基礎体温を記録することは、現時点ではできません(※)。代わりにウェアラブルデバイスから得られる別のデータを使用して、この月経周期と連動した周期性と同様の傾向は確認できないでしょうか?

※皮膚温であればFitbit等で記録が可能ですが、その違いについては後ほど触れます。また一般的なスマートウォッチ等ではない、基礎体温測定用の専用のウェアラブル機器は存在します。

本稿では、この疑問を解明するため、月経周期とウェアラブルデバイスデータで得られた心拍数・脈拍数との関連を探っていきます。また、ホルモン製剤を服用している人と服用していない人とのデータから、服薬がその関連にどういった影響を与えるかも調べていきたいと思います。

イメージイラスト

ウェアラブルデータが月経周期と関連するかどうか

まずはウェアラブルデバイスのデータが月経周期と連動した周期性(二相性)を示すかどうかを検証しました。

【対象データ】

女性ホルモン製剤を服用していない女性社員(Aさん)の約半年間のデータを可視化しました。

使用ウェアラブルデバイス:Fitbit
指標:安静時心拍数、起床直前30分(基礎体温の計測タイミングに合わせて)の脈拍数、皮膚温

【結果】

グラフはそれぞれの指標の1日ごとのデータを点で表し、7日移動平均線を表示しています。月経開始日は縦の赤線で示しました。

グラフ

分析の結果、安静時心拍数と起床直前30分の脈拍数については、月経開始日に向けて上昇し、その後低下するという傾向が見られました。この二つの値については、月経周期と連動した周期性があると言えそうです。

一方、皮膚温では心拍数・脈拍数データほどの明確な周期性は確認できませんでした。皮膚温も基礎体温と同様に周期性を示すかと思われましたが、Fitbitを装着した手の位置(布団の中か外か)や室温といった外部環境の影響を受けやすく、月経周期の影響が反映されにくい結果になったと考えられます。

ホルモン剤を服用することによって周期性が変化するのかどうか

次に、ウェアラブルデバイスの心拍数データと月経周期との関係が、女性ホルモン製剤を服用している方々でどのように異なるかを検証しました。

【対象データ】

2名の女性社員から得られた約半年間のデータが対象です。
先ほどの検証で月経周期と特に明確な関連性が見られた、安静時心拍数に注目して分析を進めました。

  • Aさん: 何も服薬していない方
  • Bさん: ジエノゲストを服用している方

【ジエノゲストの作用】

可視化したデータを見る前に、ジエノゲストが体にどのような作用をもたらすのかを簡単に説明します。

子宮内膜症や子宮腺筋症に伴う痛みの治療に使用され、毎日服用します。
女性ホルモンの一種であるプロゲステロン受容体に対して似た働きをし、卵巣機能抑制および子宮内膜細胞の増殖抑制によりプロスタグランジン産生を抑制することから、月経困難症に対する有効性を示すと考えられます。また、LHサージを抑制し、排卵抑制作用を示すと考えられます(1)。排卵が抑えられ月経が来なくなります。

ジエノゲストの服用は、女性の身体の周期性にどのように影響を与えるのでしょうか。

【結果】

2人の安静時心拍数の経過を可視化しました。

グラフ

グラフからは、以下の特徴が見られました。

服用なし(Aさん):

先ほど見たとおり、安静時心拍数が月経開始日に向けて上昇し、その後低下するという周期性が見られます。女性ホルモンの変動が心拍数にも影響を与えている可能性があります。

ジエノゲスト服用者(Bさん):

Aさんよりグラフの変動幅が少なく、明確な周期性は見られませんでした。
ジエノゲストは毎日服用することから服用による女性ホルモン量の変動が少なくなります。これにより、安静時心拍数の周期性が、服用なしのAさんよりもみられないのではないかと考えています。

まとめ

今回の調査から、以下のようなことがわかりました。

  • 安静時心拍数と起床直前30分の脈拍数については、月経開始日に向けて上昇し、その後低下するという傾向が見られ、月経周期と連動した周期性があると言えそうです。
  • ジエノゲストを服用している方の心拍数に周期性が見られなかったことは、薬が女性ホルモンを通じて身体の周期性にも影響を与えているという可能性を示唆しているかもしれません。

ジエノゲストなど女性ホルモン剤の服用者に関する基礎体温や体調のデータはまだ多くありません。そんな中、ウェアラブルデバイスのデータは、毎朝手動で計測しなければいけない基礎体温と違って継続的に女性の体調を記録できるという点から非常に意義があると考えられます。今回の可視化から得られた「女性ホルモンが生体へ影響を与える可能性がある」という結果も、今後の女性の体調管理に役立つかもしれません。

今回の調査は少数のデータに基づいたものであり、今後医学的観点からの考察をより深める必要があります。今後も、より多くのデータを集め、女性の健康に関する課題を解き明かし、よりパーソナライズされた健康管理や治療法の開発に貢献していきたいと考えています。




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